もうかれこれ10年以上も前の話です。
1つの敷地の中に、2つの施設を共同出店と言う形で設計に携わった事がありました。
それぞれの施設は、愛知トヨタ(自動車ディーラー)とマクドナルドでした。
愛知トヨタ側の設計は、中日設計さん。
マクドナルドは私が担当したものです。
このマクドナルドは内装のリニューアルをし、今も日進市にあります。
この合同設計の打ち合わせの時に言われた言葉が、非常に興味深いので、今回はそれをお話ししたい。
中日設計さんと何度か打ち合わせを重ね、最終図面を持ち込み、すり合わせをし、図面を渡した時に、それはおきました。
中日設計の設計部長さんから言われたのです。
これは特にマクドナルドの設計をしていて、創業者の藤田田さんからも言われ続けていたことと同じ趣旨です。
私の図面を見て、「うぁ~この工事区分表、こんなに細かいんですね。こんなにびっしり区分けされるのですね。」だったのです。
店舗設計と他の住宅や介護施設などとほんとに大きく違うところです。
愛知トヨタを設計している、中日設計さんでも知らなかったのです。
何故でしょうか?
工事区分と言っても、建築、電気、設備と言った、単なる工事区分ではありません。
A工事、B工事、C工事の工事区分の事です。
時にはD工事もありますが・・・。
知っている人は当然知っている概念ですが、店舗設計をしたことの無い人は、初め面食らうと思います。
A工事は、オーナー施工、オーナー支払い。
B工事は、オーナー施工、テナント支払い。
C工事は、テナント施工、テナント支払い。
時には、D工事(特殊工事で、テナント側しかできない工事)まであり、これはテナント施工、オーナー支払いの事。
この現場でのオーナーは、ランドオーナーの支払いでした。
そしてテナントはマクドナルド側の支払いです。
何故、B、D工事なるものがあるかは、考えてゆくとわかるのですが、ここでは割愛いたします。
そもそも店舗開発を行う時の契約形態は、「土地の賃貸借契約」、建て貸しと言われる「建物の賃貸借契約」、「リースバック契約」と3種類あります。
それでどんな契約になろうと、問題が出ずに、上手く進めてゆくためには、明確な工事区分、つまり線引きが必要なのです。
それも細かな工事ごとの金額が紐づいていないといけません。
なぜなら、このC工事は、高いので、A工事に振り替えできないか?
C工事で工事は行うが、メンテナンスはA工事ね、とか。
と言った問いにたいし、すぐに答えられないといけないからです。
厳密にいえば、この工事区分の変更による金額の変更は、賃料や建設一時金の金額に左右してゆきます。
そして大きな意図としては、もちろん、テナント側の工事とメンテナンス金額を少しでも減らしたいという希望があります。
しかし本当はそれだけではありません。
愛知トヨタをと言う店舗設計をしている、中日設計さんすら知らなくて、マクドナルドは知っていた、つまりおこなっていたことは、、、「フランチャイズビジネス」です。
つまり本当にやりたいことは、建築、特に「C工事分の売り買い」をしやすくする事なのです。
普通の建築士は、一つの建物が完成して、ちゃんと機能すればそれでいいでしょ?と乱暴に考えがちです。
しかしフランチャイズビジネスから考える建築は、完成形ではなく、これが売れるかどうかが重要なのです。
フランチャイズビジネスは、30年前にはなかった新しい概念です。
今でもなかなか分かってもらえないこともあります。
このフランチャイズビジネスとは、「一切合切の営業権利の販売」です。
当然そこには建物も付いています。
これら出来た建物に、経営ノウハウ(営業権利、販売マニュアル、販売スキル、資材配送)をつけて販売する事です。
建築は、基本、安く造って高く売ることです。
売り買いをしやすくするためには、明確な工事区分が不可欠なのです。
そしてこの工事区分が、少なければ少ないほど安く仕入れることが出来るわけでもあります。
建物を販売から考えた時、設計手法や、工事区分など全てが理解できるようになります。
工事区分は、いかに建物を売りやすくするか?をとことん考え抜き、出来たものなのです。