私の設計秘話・その1

 

設計監理をしてきた中で、引き渡しの時に、オーナーさんが泣いて喜んでくださったことがあります。

それも2度程あります。

 

どちらのオーナーさんも30代女性で、美しい方でした。

既婚者さんですが、その時、何故か私は、設計監理に力が入っていました。

女性オーナーと男性オーナーで、別に差別をしているわけではありません、、、、。

 

私は、このお二人の涙によって建築設計・監理と言う仕事が、辞められなくなったと言ってもいいでしょう。

その後の人生の方向性が決まった瞬間だと感じています。

本当にすばらしい思い出になっております。

今回はそのうちの一つをお話いたします。

 

今では当たり前になりましたが、住宅生協と言うものがあります。

それと同じような活動をしていた時のお話です。

名古屋市内のTOTOの会議室を借りて、住宅のリフォームや新築工事のワンポイントセミナーなどを開いていました。

私たちから見ると、いわゆるセミナー集客と言うやつです。

 

そこにご夫婦そろって聞きに来てくださいました。

仮にAさんご夫妻としておきましょう。

セミナー後の打ち合わせで、子供部屋を造りたいという希望がございました。

 

その数日後、Aさんのご自宅で現況を見させていただいての打ち合わせです。

Aさん家族は、ご夫婦と、女のお子さん、そして祖父母の4人家族。

部屋数は多いのですが、田の字プランの様になっていて、また部屋の使い方、大型家具などから、それを個室化することが出来ませんでした。

いろいろとお話しさせていただき、結局、子供部屋は増築することとなりました。

土地の空地形状から、建物のつなぎ方などを検討し、プランをたててゆきました。

 

住みながらの増築なので、既設の建物はなるべく工事をしない方法となりました。

工事前のいらなくなった物の処分や、建物内での大型家具や電化製品の移動など、工事中はかなり窮屈な生活をされたと思います。

 

ご夫婦とお子さんは、日中は仕事や学校のため、留守にできますが、おばあちゃんは、1日中、埃や騒音に悩まされたと思います。

 

増築箇所に既設の浄化槽があり、移動しなければならず、いっそ新しいものに取り換えるという方向で話が進んでゆきました。

つまり下水が使えなくなる日が無いように工程を組んで進めたからです。

 

竣工時に、外から見て見ると、既設部分と増築部分がほとんどわからないように溶け込んでいました。

瓦の色や、外壁色なども全く同じです。

少しサッシと樋の色が新しく感じるぐらいでした。

 

その時の増築は、建材だけでなく、たたずまいも同じでした。

本当に一見しただけでは、どこを増築したかもわからないようになっていました。

残された庭も、今までもそのように存在していたかのようです。

 

私たち建築士は少しでも自己主張したくなり、新しい建材や新しい屋根の吹き方などを求めすぎ、使いたがる傾向にあります。

 

しかし既存の工法やレベルに合わせることは、既存建物のたたずまいや工法、住まわれる人の生活など、全てにおいて真摯に向き合わないといけません。

 

引き渡しの時に、少ない設計料で、何度も現場監理に足を運んでいただき、ありがとうございましたと言って、泣かれてしまいました。

 

その後、家族全員と私とで記念撮影をしました。

その時の写真は、今も大切に保管しております。

 

建築士は、黒子に徹しないといけない、中途半端に自分を出してはいけない、そんなことを教えていただけた物件でした。